— 商品とブランドの“強み”×P/L(採算)で、最短の勝ち筋を選ぶ —
はじめに:チャンネルは「思想」ではなく「設計」
どのチャンネルが“正しい”ではありません。商品とブランドの強み、採算構造(P/L)、日本の購買行動(モール文化・季節性)の三点で合う型を選ぶだけです。
本稿は、D2C(自社 EC)先行/楽天先行/並走の選び方を、具体数値と事例で示します。最後に90日実行計画とピボット基準(7ヶ月目)、そしてご相談のご案内も添えます。
重要:ここでの数値は“例”です。実際はカテゴリ・サイズ・温度帯・返品率・広告単価で大きくブレます。最終判断は専門家と P/L で確定させましょう。
まず“強み”から選ぶ:どんな商品・ブランドがどの型に向くか
D2C 先行に向く強み
- 説明が必要(“なぜこれ?”を語る余白が大)
例:機能系コスメ、テック雑貨、健康食品、学習・体験型商材 - ブランド物語/世界観で差がつく
例:職人性・産地性・ストーリー性の高い D2C - LTV/リピートが見込める(定期・詰替・アクセサリ連鎖)
- 粗利率が高い(60〜70%↑)、AOV が高い(7,000円↑)
- 差別化資産(独自素材/独占供給/意匠・商標)を持つ
楽天先行に向く強み
- モール内に既存需要が厚い(検索語×イベント)
例:ギフト、日用消耗、季節家電、キッチン・収納、ファッション基礎アイテム - “作法化”できる(主画像の型、タイトルの語順、カテゴリ最適)
- レビュー速度を上げやすい(同梱・使用感が短期で出る)
- AOV 中位(5,000円前後)でも送料効率が良い(薄く軽い)
- 価格弾力性が低い(“妥当価格”帯で量が出やすい)
並走(D2C+楽天)の前提条件
- 人時が足りる(最低:週20–30hを確保し、週次3課題で運用)
- 在庫・価格の同期(二重在庫・自家カニバリを避ける仕組み)
- チャネル別 P/L が見える(TACOS/MER・ポイント原資を可視化)
- どちらかの“主戦”を決める(等配分は学習が薄まりがち)
採算(P/L)で選ぶ:1件でいくら残るか→月に何件必要か
基本式(再掲)
- 貢献利益/件
(売上 × 粗利率) − {手数料 + 送料 + 梱包 + 広告CPA + 返品損 + ポイント原資 等} - 雇用トリガー例:月45〜60万円の貢献利益(3ヶ月連続)
以下、実数例で体感してみます(四捨五入あり)。
例A:プレミアム基礎化粧品(高粗利・軽量)
- AOV 7,200円 / 粗利率 70%
- D2C:決済3.6%、送料350、梱包60、CPA 1,200、返品80
→ 貢献/件 ≒ 3,090円 → 必要件数 ≒ 146件/月(45万円) - 楽天:手数料12%+ポイント5%、送料350、梱包60、RPP 500、返品80
→ 貢献/件 ≒ 2,826円 → 必要件数 ≒ 159件/月
示唆:高粗利×軽量は D2C でも楽天でも雇用圏内。
ブランド構築や LTV を重視なら D2C 先行、立ち上げ速度を重視なら楽天先行も有力。
例B:中粗利の収納用品(やや重い)
- AOV 5,500円 / 粗利率 50%
- D2C:決済3.6%、送料700、梱包100、CPA1,200、返品80
→ 貢献/件 ≒ 472円 → 必要件数 ≒ 953件/月 - 楽天:手数料12%+ポイント5%、送料700、梱包100、RPP 600、返品80
→ 貢献/件 ≒ 335円 → 必要件数 ≒ 1,343件/月
示唆:送料段差が重い商材は、単品だとどちらも厳しい。
セット化でAOV↑・厚み/サイズ最適化が必須。並走は学習コスト過多になりやすい。
例C:低粗利の消耗品(単品赤字→バンドル前提)
- AOV 3,980円 / 粗利率 35% / 送料300 / 梱包50
- D2C(CPA700) → 貢献/件 ≒ 150円 → 必要件数 ≒ 3,006件/月
- 楽天(RPP300、手数料12%+P3%) → 貢献/件 ≒ 96円 → 必要件数 ≒ 4,688件/月
示唆:単品は不可。バンドルでAOV 5,980円、粗利率38%、送料350に調整すると
D2C:貢献/件 ≒ 787円 → 必要件数 ≒ 572件/月
楽天:貢献/件 ≒ 505円 → 必要件数 ≒ 890件/月
ここまで上げてやっと議論のテーブルに乗る。
許容 CPA(広告上限)の出し方
許容 CPA = (売上 × 粗利率) − {手数料 + 送料 + 梱包 + 返品損 + ポイント原資} − 目標貢献/件
- 例Bの条件で目標貢献/件=1,000円を残したい → 許容CPA ≒ 95円
→ 無理筋。AOV↑・送料↓・ポイント↓など“広告以外”のレバーを先に動かすべき。
スコアリングで“今の最適”を選ぶ(簡易診断表)
各項目を1〜5で採点(高いほど該当)。合計点が最も高い型から着手。
| 評価軸 | D2Cに+ | 楽天に+ |
|---|---|---|
| 説明必要度(教育コスト) | +2 | 0 |
| モール内既存需要(検索/ランキング) | 0 | +2 |
| 粗利率(60%↑なら+) | +2 | +1 |
| 送料効率(薄く軽い) | +1 | +2 |
| LTV/定期性 | +2 | +1 |
| レビュー速度を作りやすい | +1 | +2 |
| ブランド世界観・物語性 | +2 | 0 |
| 価格弾力性(安易に下げられない) | +1 | +1 |
| 運用リソース(週25h確保) | +2 | +1 |
- 合計が D2C 側に6点以上寄る → D2C 先行
- 楽天側に6点以上寄る → 楽天先行
- 伯仲 → “主戦+従戦”の並走(どちらかに70%の人時と予算を寄せる)
迷ったら、在庫と広告の“学習速度”が速い方を先に。早く負けを認識できる場が善。
戦略の具体:それぞれ90日プレイブック
D2C 先行(ブランド教育×CRM)
目的:CVR と AOV で許容 CPA を押し上げる。リピートで LTV 基盤を作る。
Week 1–2:主画像/比較表/FAQを “勝ち型”に(レビュー低評価語を反映)
Week 3–4:比較 LP・ストーリーLP/かご落ち・ウェルカムの自動化
Week 5–8:LINE 公式の基盤化(クイズ型/サンプル誘導/UGC 呼び込み)
Week 9–12:広告は検索×リターゲ軸に寄せ、Meta広義→検索回収で学習を守る
KPI:CVR 0.8→1.5→2.5%、AOV +500〜1,000円、リスト獲得単価の安定
リスク:短期露出が弱くレビュー速度が立ちにくい。
→ 対策:テスト在庫の小口楽天出店で需要確認→D2Cに知見還流もあり。
楽天先行(既存需要×イベント×RPP)
目的:レビュー速度と実質価格でカテゴリ“面”を取る。
Week 1–2:カテゴリ選定→主画像の型・タイトル語順・属性を最適化
Week 3–4:RPP初期セット(絞り込みキーワード+否定語)/Q&A・同梱カード設計
Week 5–8:イベント(マラソン/SALE)前後のポイント設計・入札前倒し
Week 9–12:レビュー返信の型を決め、低評価原因を画像・FAQに即反映
KPI:レビュー平均★4.2↑、週次レビュー増分↑、RPP CTR/CVR がカテゴリ中央値±20%以内、貢献/件 800〜1,500円
リスク:ポイント原資で P/L が薄くなる、イベント依存で粗利変動。
→ 対策:セット化で AOV↑、送料段差の最適化、ポイント控えめ運用を検討。
並走(主戦7:従戦3)
目的:学習を途切れさせず知見相互移転。在庫と価格の整流化。
Week 1–2:主戦を明言(例:D2C 70%)、従戦は MVP 運用(SKU 絞り)
Week 3–4:在庫連携・価格パリティ・レビュー運用 SOPを作成
Week 5–8:従戦の勝ち型(主画像・語順・クーポン)を2–3回転/週で検証
Week 9–12:チャネル別P/Lを毎週可視化し、赤字チャネルはM7を待たず縮小
KPI:主戦の CVR/AOV/レビュー速度が伸び続けること。従戦は貢献/件 800円↑が目安。
リスク:人時が分散しやすい。
→ 対策:“今週の3課題”をチャネル横断で合計3つに固定。
“季節性×チャネル”の噛み合わせ(日本特有の山に乗る)
- D2C:母の日/父の日/クリスマス等は特集LP+バンドルで AOV↑。記事×比較表で検索意図を回収。
- 楽天:マラソン/スーパー SALE が“山”。ポイント設計と RPP 入札前倒しで露出を取りに行く。
- 並走:楽天の山でレビュー速度を稼ぎ、D2C に信頼(社会的証明)を移植。
失敗例:ピーク直前に欠品→レビュー速度低下→順位陥落。安全係数1.2–1.5で在庫を前倒し。
7ヶ月目(M7)で“容赦なく選別”する基準
- Double-Down(倍掛け)
- 貢献/件 ≥1,500円(2ヶ月)
- レビュー速度↑ × ★4.2↑
- 在庫回転 ≤60日、TACOS 15–18%で安定
- Shrink(縮小)
- 貢献/件 <1,000円(3ヶ月)
- TACOS >25%(2ヶ月)
- 返品率が想定×2(2ヶ月)
- Stop(撤退)
- 3MA 貢献利益マイナス(3ヶ月)
- CPA > 粗利(4週間)
- ★3.9未満が3ヶ月
決めたら翌週に反映。Stop は予算0、Shrink は半減、Double-Down は1.3–1.5倍。
ケース別“最適の型”提案(例)
ケース1:高単価×高粗利×説明必要(機能性スキンケア)
- 推奨:D2C 先行(並走は M4 以降に少量)
- 根拠:教育コスト高/LTV 期待/世界観で差別化可能
- 実装:比較LP→UGC→LINE のナーチャリング。楽天は母の日/クリスマス前だけ小ロットで需要を測る。
ケース2:中価格×中粗利×薄軽×ギフト適性(グルメ/スイーツ/雑貨)
- 推奨:楽天先行
- 根拠:モール内検索需要・イベント合致/レビュー速度で面を取れる
- 実装:主画像の“型”、RPP 否定語、イベント前倒しのポイント設計。D2C はギフト特集 LP でAOV↑。
ケース3:低粗利×消耗品(単品だと赤)
- 推奨:D2C か楽天で“片翼集中”+バンドル必須
- 根拠:AOV・送料効率がすべて。並走は学習と在庫が分散しやすい。
- 実装:2個/3個セット、定期、詰替。許容 CPAを引き上げてから広告拡大。
くり返しますが“例”です。最終は自社の P/L と在庫・広告運用力で決めます。
今日のチェックリスト(5分)
- 自社 SKU の貢献/件をチャネル別に試算した
- 許容 CPA を計算し、広告だけでなく CVR/AOV/送料のレバーを確認した
- スコアリング表で“今の最適”を仮決めした
- 90日プレイブックを1つ選び、今週の3課題を決めた
- M7 の選別基準(Double-Down / Shrink / Stop)を文書化した
まとめ:チャンネルは“合う方から”攻める。合わなければ7ヶ月目で切る
- D2C 先行:教育・世界観・LTV で“許容 CPA”を上げ、長期の厚みを作る。
- 楽天先行:既存需要・イベント×RPP で短期の速度を作る。
- 並走:主戦7:従戦3。学習を壊さず知見を相互移転。
- すべて P/L で判断。1件でいくら残るか→月に何件必要かが経営の言語です。
最後に:必ず“わかる人”に数字を見てもらう
ここに示した数値は、実装の叩き台にすぎません。カテゴリ・原価・物流・広告単価で最適解は変わります。
最終判断は専門家と、自社の P/L を“桁まで”検証してから下してください。
ご相談ください:
弊社では、チャネル別 P/L の作成、許容 CPA の設計、楽天・D2C の90日プレイブックの策定までを並走支援しています。
「うちの条件だとどれが最短か?」を実データで一緒に決めましょう。
ネットショップ企画(記事一覧)
Phase 0|覚悟と設計:片手間では勝てない(全5回)
- 第1回 : 片手間ではなく「雇用を生むEC」へ
- 第2回 : 目標設定:1人雇用のためのP/L逆算
- 第3回 : チャンネル戦略の型:D2C 先行 / 楽天先行 / 並走
- 第4回 : 12ヶ月ロードマップと週次運用リズム
- 第5回: リスクと撤退基準(健全な“やめる勇気”)
各チャプター一覧
- Phase 1|調査と戦略:日本市場を読む
- Phase 2|構築・商品力:勝てる土台を作る
- Phase 3|集客・運用:回して磨く
- Phase 4|拡張・採用:人を雇える事業へ


