— 「半年は耐える」「7ヶ月目で冷静に刈り込む」ための実戦ガイド —


この記事の目次

はじめに:最初の6ヶ月は“投資期間”、7ヶ月目からは“選別期間”

この章のメッセージは明快です。最初の約6ヶ月は、売上よりも仕組みと学習データに投資します。商品ページの型、レビュー獲得動線、広告の学習、在庫と現金の往復、CS の標準対応…これらは短期では成果が見えにくい資産です。
一方で、7ヶ月目からは「伸ばす・縮める・やめる」を冷徹に判断します。撤退は敗北ではありません。勝ち筋への再配分であり、1人雇用を最短で実現するための「経営判断」です。

以下、12ヶ月のロードマップ、週次の運用リズム(WBR=Weekly Business Review)、月次レビュー(MBR)の型、KPIのしきい値、そして7ヶ月目以降の撤退・縮小トリガーを具体的に提示します。


北極星(North Star):月間「貢献利益」を安定化

  • 北極星KPI:月間貢献利益(粗利−モール/決済手数料−送料−梱包−広告費−返品損−その他可変費)
  • 採用トリガー例:3ヶ月移動平均で45〜60万円を連続達成(職種・地域で調整)。
  • 補助 KPI の階層
    • トラフィック:セッション(自社EC)、モール露出(検索順位/入札表示率)
    • 転換:CVR、AOV、かご落ち回収率
    • 単価構造:粗利率、送料/手数料/広告比率、返品率
    • 社会的証明:レビュー★とレビュー速度(=日/週あたりの増分)
    • 在庫:回転日数、欠品率、死蔵在庫

原則:週次で北極星→階層KPI→打ち手(チケット)に落とす。数字→行動→検証の反復です。


12ヶ月ロードマップ(フェーズ別に“何を作るか”を固定)

M0–1:設計フェーズ(意思決定の土台を作る)

  • 目的:やみくもに作らない。調査→採算モデル→打鍵順を合意。
  • 成果物
    1. 採算モデルv1(自社EC/モールの2系統)
    2. 商品ページの型(主画像・比較表・FAQ・同梱カード)
    3. レビュー獲得動線(RPR=レビュー化率の仮置きと施策)
    4. WBR/MBR の議事テンプレ(この章の末尾に雛形)

M2:MVP構築フェーズ(最小で売れる状態をつくる)

  • 目的:SKUを広げず“勝ち筋がありそうな1〜3SKU”に集中。
  • 成果物
    • 自社LP/EC公開、モール1面(楽天/Yahoo!/Amazon等)を優先1つ
    • 初期広告セット(RPP/SPなど)と否定語の仮リスト
    • 返品・配送ポリシーの公開

M3:初動学習フェーズ(レビュー★と速度の立ち上げ)

  • 目的レビュー速度(週次増分)を作る。★の根拠(同梱・CS)を固める。
  • 成果物
    • 低評価クラスタの是正(色味/サイズ/初期不良/匂い等)
    • 広告の学習窓を邪魔しない運用(過度なオンオフ禁止)

M4–M5:安定化フェーズ(勝ち筋のチューニング)

  • 目的SKUを増やさない勇気。主力設計を磨く。
  • 成果物
    • 主画像A/B、タイトルの構文最適化(モール作法に寄せる)
    • 配送原価の削減(梱包資材・サイズ最適化)
    • **CVR>2%(自社EC)/ レビュー★4.2↑(モール)**を一つの目安

M6:仕上げフェーズ(“半年の耐え”の最終週)

  • 目的7ヶ月目の選別会議のための正確なダッシュボードを完成。
  • 成果物
    • 3ヶ月移動平均の貢献利益線
    • チャネル別P/L(売上→手数料→広告→物流→貢献利益)
    • 在庫回転とキャッシュフロー表

M7:選別フェーズ(伸ばす・縮める・やめる)

  • 目的:感情を排し、冷徹に資源再配分
  • 判断例
    • Go(倍掛け):主力SKUで貢献利益/件≥1,500円、レビュー速度↑、在庫回転健全
    • Hold(改善継続):CVR改善余地が数式で見える
    • Stop/Pivot返品率2倍超が継続★3.9未満が3ヶ月/CPA>粗利が4週間連続

M8–M9:スケールフェーズ(勝ち筋の横展開)

  • 目的:広告と在庫をコントロールしたままボリュームを増やす。
  • 施策
    • SKU の“近縁”展開(容量/色/セット)
    • モール横展開(Qoo10 やメルカリ Shops で小型検証)
    • CS/SOP の準自動化(テンプレ・マクロ・AI 草稿→人確認)

M10:耐久テスト(可用性/ブラックフライデー等ピーク対応)

  • 目的:ピークで“壊れない”ことの証明。
  • 施策
    • 在庫・出荷キャパのストレステスト
    • 広告キャップ(MER/TACOS の上限)を設定

M11–M12:雇用準備フェーズ(拡張に耐える仕組み)

  • 目的1人目の雇用に向けSOPとKPIを可視化。
  • 成果物
    • 受注→出荷→CS→返品→会計の SOP パック
    • オンボ資料(職務範囲・評価KPI・週次リズム)
    • 次年度のチャネル損益計画(依存度分散)

メンタル指針:M0–M6 は粛々と積み上げ、M7 で容赦なく刈る。M8 以降は伸ばすものだけに集中。


3. 週次運用リズム(WBR):1週間を“同じ型”で回す

時間は意思決定の燃料。週次リズムを固定すると、悩む時間が減り、検証速度が上がります。

曜日ごとのルーティン(例)

  • Mon|WBR(1.5h)+在庫・仕入れ(1.5h)
    • 先週のKPI(北極星・補助KPI)→3つの最優先課題→今週のチケット化
    • 欠品/過剰の警報、リードタイム確認
  • Tue|商品ページ&撮影(3h)
    • 主画像/タイトル/説明/比較表の改善、FAQ更新、低評価の是正要素を反映
  • Wed|広告運用(3h)
    • 入札調整、否定語追加、配信面のテスト、RPP/SPの**“週次の型”**に従う
    • 予算は日次では触りすぎない(学習窓を確保)
  • Thu|CRM&レビュー(2h)
    • LINE/メールの自動化点検、レビュー要請テンプレ更新、低評価フォロー
  • Fri|オペ&財務(2h)
    • 返品率・配送クレーム・梱包品質、TACOS/MERの確認、キャッシュフロー更新
  • Sat/Sun|バッファ(1〜2h)
    • ピーク時の出荷対応やクリエイティブ撮影など

WBR アジェンダ雛形(90分)

  1. KPI サマリ(15分)
    • 月間貢献利益(実績/予測/3ヶ月移動平均)
    • 主要KPI(トラフィック/CVR/AOV/広告比率/返品率/レビュー速度/在庫回転)
  2. 赤信号の確認(10分)
    • CVR<1.0%が2週継続CPA>粗利が2週★3.9未満など
  3. 学びの共有(15分)
    • 勝ちクリエイティブ、低評価の新クラスタ、配送のボトルネック
  4. 今週の3課題(40分)
    • 課題→仮説→施策→数値の合格ライン→担当→締切
    • 例:「主画像 A→BでCTR+1pt」「レビュー要請カード改訂で RPR+1pt」
  5. リスク・依頼(10分)
    • 欠品予兆・OEM 遅延・広告審査・法務変更

注意チケットは“終わった/終わってない”でなく“数値が動いた/動いてない”で評価します。


月次運用リズム(MBR):意思決定のための1枚

MBR(60〜90分)は方向の是正資源配分の会議です。

  • サマリ(1枚):貢献利益・広告比率・返品率・レビュー速度・在庫回転・現金
  • チャネルP/L:自社EC / 楽天 / Yahoo! / Amazon / 他(TACOS/MER付き)
  • ユニットエコノミクスの変化:送料/手数料/CPA/粗利率の動き
  • SKU別マトリクス:貢献利益/件 × 注文数(象限で色分け)
  • 決定事項:伸ばす/縮める/やめる、来月の投資枠、在庫の増減

M6 の MBR は特別扱い。M7 の選別のために、悲観/中間/楽観の3ラインで翌四半期の粗い予測も作る。


KPIの“合格ライン”例(初期→中期)

  • CVR(自社 EC):初期0.8〜1.5% → 中期2.0〜3.0%
  • 広告比率(売上比):初期15〜25% → 中期10〜18%(カテゴリ差あり)
  • レビュー平均:初期4.0↑を死守 → 中期4.3〜4.6
  • レビュー速度:週10→30→50(SKU 規模により)
  • 返品率:カテゴリ標準±(衣料高め/常温食品低め/コスメ中位)で悪化は即対処
  • 在庫回転:ターゲット回転日数を SKU 別に設定(例:主力45〜60日、ロングテール90〜120日)

どれも“数式で改善”するのが前提。例えば CVR は「主画像 CTR×商品理解×安心(FAQ/保証)」に分解し、どこを何pt伸ばすかを WBR で宣言。


7ヶ月目からの「選別会議」:撤退・縮小のトリガー

M7 の MBR では、以下の定量条件単体/複合で評価→決定します。

Stop(撤退)例

  • 3ヶ月連続で月間貢献利益がマイナス(広告抑制後も好転せず)
  • CPA>粗利4週間以上継続
  • レビュー平均★3.9未満3ヶ月継続、改善打ち手の効果が観測されない
  • 返品率が想定の2倍2ヶ月継続(サイズ/色/初期不良など原因の構造が変わらない)
  • 在庫回転120日超が継続、値下げ吸収でもキャッシュ詰まり

Shrink(縮小)例

  • 貢献利益/件が1,000円未満3ヶ月(セット化/送料設計で改善余地あり)
  • レビュー速度が落ちるが、CS/同梱見直しでリカバリ可能な兆候
  • 広告の学習が途切れがち(否定語の未整備/季節要因)→学習ウィンドウ確保を優先

Double-Down(倍掛け)例

  • 貢献利益/件≥1,500円かつレビュー速度↑在庫回転60日以下が2ヶ月継続
  • クリエイティブの勝ち型が再現(主画像/コピー/同梱の特定要素)
  • 返品率が品種平均以下、CSの一次解決率↑

決定後の動作:Stopは予算をゼロ、Shrinkは半減、Double-Downは1.3〜1.5倍など、翌週のWBRで即反映


役割・SOP・ツール:1人運用でも“分業の型”を持つ

  • 役割の仮面(1人でも帽子をかぶり替える)
    • PM(優先順位と資源配分)
    • MD/在庫(仕入れ・回転・補充)
    • クリエイティブ(撮影/編集/コピー)
    • 広告(入札/否定語/レポ)
    • CS(レビュー/問い合わせ/テンプレ)
    • オペ(出荷/梱包/品質)
    • 財務(キャッシュ/与信/請求)
  • SOP 最小セット(WBRで毎週1本更新)
    • 主画像更新手順、RPP/SP週次調整手順、返品処理手順、レビュー要請運用
  • ツール(例)
    • チケット/ドキュメント:Notion/Googleドキュメント
    • 表計算:スプレッドシート(P/L、在庫、広告)
    • 連絡:LINE公式、メール自動化
    • 計測:GA4/サーチコンソール/ヒートマップ、モール各種レポ

広告の週次型:学習を壊さない“ルールベース”

  • 初期(M2–M3):テスト幅>最適化。1広告グループ1仮説(訴求/画像/価格帯)。
  • 中期(M4–M6)否定語の積み上げ、入札の微調整(±10–15%)。日次で振り回さない
  • 選別後(M7〜):勝ち面に集中出稿TACOS/MER の上限・下限を決める。
  • ガードレール
    • TACOS(広告費/総売上)…初期20〜30%→中期15〜20%
    • MER(総売上/広告費)…初期3.0→中期4.0↑を狙う
    • CPA粗利以下が原則(超過は2週間で是正)

在庫・現金:WBR で最初に見る“生命線”

  • 在庫回転目標:主力45〜60日、検証SKU90〜120日
  • 再発注点:販売日数×リードタイム×安全係数(1.2〜1.5)
  • 危険信号
    • 欠品によるレビュー低下が兆候化
    • OEM の MOQ で現金が凍る(検証前の大ロットは避ける)
  • 資金繰りの型
    • モール入金サイクル、自社決済の入金/手数料、広告請求日1枚表で可視化
    • 7ヶ月目の選別前に現金クッション≥2ヶ月を目安

2つの進め方:モール先行 vs 自社EC先行(週次の違い)

  • モール先行
    • レビュー速度カテゴリ整合RPP/SP の地道な積み上げ
    • 週次では主画像/タイトルの作法最適化に比重
  • 自社EC先行
    • セッション×CVR×AOV のレバーが多い。
    • 週次では記事/比較LP/FAQ/かご落ちの改善に比重
  • 並走の注意:人は1人今週の3課題を超えた案件は来週以降に逃がす(拡散でどちらも学習しないのが最悪)。

よくある躓きと回避策

  1. 「今週の3課題」が5つに増殖
     → 3つに削る勇気。残りは積み残し欄へ。
  2. 広告を日次で触って学習リセット
     → 週次のウィンドウを守る。大きく動かすのは MBR 後
  3. SKU を増やして在庫と広告が分散
     → 勝ち SKU が立つまで増やさない
  4. レビューは運任せ
     → 同梱カード+CS 24h以内返信を SOP 化。
  5. 撤退を“悪”と捉えて長引く
     → M7 で切ると決めておく。半年は投資、7ヶ月目は経営判断。

今日のチェックリスト(5分)

  • 週次 WBR の固定枠(毎週同じ曜日・同じ時間)をカレンダーにブロック
  • MBR テンプレを1枚つくり、M6 用の特別版まで用意
  • 北極星 KPI(貢献利益)と3ヶ月移動平均の表を作成
  • M7 の選別基準(Stop/Shrink/Double-Down)を文章で定義
  • 今週の3課題をWBRで決め、合格ライン(数値)を明記

13. 今日の成果物(コピペ雛形)

WBR ノート雛形

# WBR YYYY-MM-DD
## 1) KPIサマリ(先週)
- 貢献利益:xxx円(前週比 +x%)/3MA:xxx円
- セッション / CVR / AOV:xx, xxx%, xxxx円
- 広告:支出xx円 / TACOS x% / MER x.x
- レビュー:平均★x.x / 週次増分 xx
- 返品率:x.x%
- 在庫回転:主力xx日 / 残xx日

## 2) 赤信号
- 例:CPA>粗利 2週連続(SKU-A)

## 3) 学び
- 主画像BがCTR+1.8pt
- 低評価「サイズ」集中→寸法画像を1枚追加

## 4) 今週の3課題(合格ライン付き)
- 課題1:SKU-A主画像再構成 → CTR+1pt
- 課題2:レビュー要請カード改訂 → RPR+1pt
- 課題3:否定語10件追加 → 無駄クリック−10%

## 5) リスク・依頼
- OEM納期遅延の可能性 → 代替ロット見積もり

MBR サマリ1枚(構成)

  • タイトル:MBR YYYY-MM(M7は“選別版”)
  • ① 貢献利益(実績/予測/3MA)
  • ② チャネルP/L(TACOS/MER)
  • ③ SKU マトリクス(貢献/件 × 注文数)
  • ④ 返品率・レビュー速度
  • ⑤ 在庫回転・キャッシュ
  • ⑥ 決定事項(Stop/Shrink/Double-Down、予算/在庫配分、来月の3テーマ)

まとめ:6ヶ月は仕組みを積み、7ヶ月目で経営する

  • M0–M6 は“学習と資産形成”:ページの型、レビュー動線、広告学習、在庫運用、CS、計測。
  • M7は“選別”の月伸ばす/縮める/やめるを数値で決める。撤退は勝ち筋への再配分
  • 週次 WBR は“現場の筋トレ”、月次 MBRは“進路の舵取り”。
  • 北極星 KPI(貢献利益)と3ヶ月移動平均を見続ける。
  • 最速で1人雇用を実現する道は、やるべきことを減らし、勝ち筋に集中すること。

半年は我慢。7ヶ月目からは、勇気を持って刈り込む。
このリズムが、“雇用を生む EC”への最短ルートです。次章では、週次 WBR の「3課題」をどうやって作るか(ボトルネックの見つけ方と数式分解)を深掘りします。

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