— “いつ・どれだけ売れるか”を数字化し、勝ち方を模倣ではなく再現する —

市場調査だけでは到達可能量(SOM)が曖昧になり、競合分解だけではいつ在庫・広告を張るかが決まりません。本稿は、
A. 日本の季節性・行事に基づく需要カレンダーを数式化し、
B. 楽天/Yahoo!/Amazonの上位店を“レビュー速度×価格×露出”で分解して、
この月に、どのチャネルで、何件×いくらを狙うか」を再現可能な計画に落とします。成功談より失敗の型に学びながら、挑戦の密度を上げる設計です。


A編:日本特有の季節性・行事で“いつ売れるか”を数式化する

まず決める3つの数字(意思決定の核)

  1. SOM(月次上限):今の自社条件で取り得る
  2. 貢献利益/件:採用・在庫判断の弾
  3. 必要件数=採用トリガー(月45〜60万円)÷貢献利益/件

以降の作業は「SOM を季節係数で割り振る件数と在庫を前倒し手配」の反復です。

日本の“行事×気候”12ヶ月カレンダー(実務用)

  • 1月:初売り・福袋・冬物最終/受験・成人の日(フォーマル・防寒・健康)
  • 2月:節分・バレンタイン/花粉開始(マスク・空調・スキンケア)
  • 3月ホワイトデー・卒業/引越し・新生活準備(収納・家電・ギフト)
  • 4月:入学/入社・新生活ピーク/薄手衣料・通勤通学需要
  • 5月母の日・GW旅行/日焼け・アウトドア
  • 6月父の日・梅雨(除湿・レイン・防カビ)
  • 7月:海の日・お中元・猛暑(冷感・飲料・UV)
  • 8月お盆・帰省・花火/猛暑継続・夏バテ
  • 9月敬老の日・台風(非常・防災・長寿ギフト)
  • 10月:スポーツの秋・ハロウィン・衣替え(収納・秋冬立ち上がり)
  • 11月:七五三・ブラックフライデー・冬準備(暖房・加湿)
  • 12月クリスマスお歳暮・年末大掃除・防寒ピーク

気温閾値で需要が跳ねます。例:最高18℃下回る→暖房・ブランケット CVR 上昇最高28℃超→冷感・扇風・塩分補給 CVR 上昇。地域差(北海道⇔沖縄)も在庫配分に反映。

季節指数(Seasonality Index)の作り方

  1. 過去3年の検索指数 or 売上比を月ごとに正規化してS_m(m=1..12)を作る
  2. 行事ブーストをE_mで別管理(母の日=1.15、メガ割=1.2 等、商材別)
  3. 需要予測式予測注文件数_m = ベース月次件数 × S_m × E_m
  4. 在庫式(再発注点)発注点 = 日販 × リードタイム(日) × 安全係数(1.2〜1.5)
  5. 広告配分S_m×E_mが高い月に前倒し(学習維持が前提)

失敗回避:ピークのをナメない。お中元/お歳暮は前月末から立ち上がる。母の日は最終木曜を過ぎると CVR が落ち始める等、締切=CVR ドロップ点を把握。

チャネル別・季節の“効き方”の違い

  • 楽天:イベント(お買い物マラソン/スーパー SALE)×ポイント設計が CVR に直撃。クーポン+RPPで山を取りに行く。
  • Yahoo!PayPay 還元設計とクーポンで実質価格を作る。LYP 系の日程をカレンダーに。
  • Amazonプライムセール/タイムセール×FBA在庫健全性。Buy Box 安定が前提。
  • Qoo10メガ割逆算で価格階段を早めに構築。
  • 自社EC:行事前に特集LP/比較表/バンドルで AOV を上げる。

失敗パターン(季節性)

  • ① 閑散月の固定費を埋められない:S_m が0.7以下の月は、広告を回しても回収できない構造。SKU を“別季節の勝ち SKU”に切り替える設計を。
  • ② ピーク直前に欠品:学習中断→レビュー速度低下→順位落ち。安全係数の設定が甘い。
  • ③ 行事の“締切”を跨いで広告増額:到着不安で CVR が落ちる。配送リードタイムを商品名/画像に明記し、即日/翌日枠を残す。

B 編:上位店の勝ち筋を“レビュー速度×価格×露出”で分解する

なぜレビュー速度を見るのか

レビュー件数は社会的証明、速度は“今”の勢い

  • 推定注文件数当月レビュー増分 ÷ RPR(レビュー化率)
    • RPR の仮置き:1%/3%/5%の3レンジで様子を見る(同梱やフォローで変動)
  • 勝ち店の特徴
    • ★4.2以上を維持しつつ速度が右肩
    • 低評価は同一原因が減少(是正サイクルが回っている)

3大モールの“勝ち型”チェックリスト

共通:主画像の“型”、タイトルの“作法”、バリエーションの“組み方”、価格/送料/ポイント/クーポンの“実質価格”、広告の“面”、レビュー運用、在庫/配送。

楽天(RMS/RPP前提)

  • 主画像:情報量多めの説明一体型(ベネフィット・サイズ・比較・実測値)
  • タイトル:カテゴリ語+型番/容量+用途+強み(※詰め込み過ぎ注意)
  • 価格ポイント倍率×クーポンで実質を作る。イベントで“まとめ買い割”
  • 広告RPPキーワード選定と否定語。イベント前後は入札を前倒し
  • レビュー:同梱カード+到着翌日のフォロー、Q&A 欄の整備
  • 在庫/配送RSL や翌日配送の文言。イベント中の欠品ゼロ設計

Yahoo! ショッピング

  • 実質価格PayPay 還元+クーポンのシナリオ組み。
  • 露出:カテゴリ内のキーワード粒度に合わせたタイトル
  • 広告:PRオプション/ショッピング広告の費用対効果を週次で把握
  • ストア評価/SLA:返信速度・キャンセル率の管理が露出に影響

Amazon

  • 主画像:白背景・ガイドライン厳守。2枚目以降で訴求(サイズ・使用感)
  • A+コンテンツ/比較表:CVR を底上げ
  • バリエーション:色/サイズ/容量を一つの親 ASIN に束ねる(レビュー集約)
  • 広告SP/SB/SD を目的別に。日次でいじり過ぎず学習維持
  • FBA在庫健全性Buy Box 率が前提。価格改定は自動ルール+手動監督
  • 相乗り対策:カタログ保全(商標・画像・パッケージ)

失敗回避モール横断のコピペ運用は禁物。各モールの“作法”に画像・タイトル・価格表示を合わせる。

競合分解のワークフロー(90分ルーチン)

  1. カテゴリ選定:売りたいSKUの“直球”カテゴリを一つ
  2. 上位20商品を表化
    順位/価格(税・送料)/容量/単価/レビュー総数/直近30日増分/★/主画像要素/タイトル構文/バリエーション/配送リード/クーポン/ポイント/広告の痕跡
  3. レビュー低評価のクラスタ:原因×症状(サイズ・色・初期不良・匂い・遅延)
  4. 勝ち型の抽出
    • 主画像の構図(手の大きさ/比較定規/ビフォーアフター)
    • タイトルの並び(カテゴリ語→容量→用途→強み)
    • 実質価格(送料込み、ポイント・クーポン適用後)
    • 口コミの“決め手語”(「想像より軽い」「ニオイがない」等)
  5. 自社への落とし込み差分だけを採用(丸コピーではなく“共通原則”を抽出)

“価格以外”で勝つ要素(上位店が必ずやっている)

  • 不確実性の除去:寸法図・装着イメージ・「当日◯時まで即日出荷」
  • セット設計:送料効率が上がる2個/3個/詰め替え、ギフト包装
  • 保証・ルール:初期不良◯日・サイズ交換可・延長保証(カテゴリ次第)
  • FAQ の可視化:返品・色味差・素材ケア
  • レビューの“話題化”:差し込みカード/レビュー返信で**“人がいる店”**感

広告とレビューの“因果”を意識する

  • 広告→露出→初回購入→レビュー→CVR 上昇の循環。
  • 広告だけ増やすとレビュー速度が追いつかず露出の継続性が削がれる。
  • 合格ライン
    • 楽天 RPP:CTR がカテゴリ中央値±20%以内、CVR が自店平均±0.5pt以内
    • Amazon SP:ACOS が粗利率以下クリックの50%が“意図合致”キーワード
    • Yahoo!:実質値引率が許容範囲(貢献/件1,000円未満は赤信号)

A×Bの統合:季節指数で“いつ攻めるか”、競合分解で“どう攻めるか”

  1. S_m×E_mが高い月に「勝ち型」を合わせる(主画像・タイトル・セット・レビュー動線)
  2. 広告枠の前倒し:ピークの2〜3週前から入札を上げて学習維持
  3. 在庫配分:地域の気温差・行事差(例:雪国の暖房立ち上がり)
  4. KPI の同期:レビュー速度の合格ラインを週次で追い、足りなければ CS/同梱の即改善

失敗事例と対策(よくある3つ)

  1. ランキングの“瞬間風速”に釣られて大量仕入れ
     → レビュー速度が落ちると露出が消える。在庫は45〜60日回転に制限。
  2. 自社 EC の写真をそのまま楽天へ
     → 作法不一致でCTR低下。楽天は説明画像、Amazonは白背景+A+で補完
  3. PayPay/ポイント設計を“値引き同等”で考える
     → 実質価格露出ブーストの両面を評価。貢献/件で見直し。

今日のチェックリスト(5分)

  • 12ヶ月S_mを作り、行事E_mを商材別に付与した
  • ピーク−3週に広告強化/在庫到着のスケジュールを確保した
  • 上位20商品の分解表(モール別)を作り、勝ち型3要素を抽出した
  • レビュー速度の合格ライン(週+◯件)を決め、CS/同梱を更新した
  • 実質価格(送料・ポイント・クーポン込)の損益をP/Lに反映した

成果物テンプレ(そのまま使える骨子)

1) 季節指数シート

month, S_m, event, E_m, note
Jan, 0.85, NewYearSale, 1.05, 冬物最終
Feb, 0.90, Valentine, 1.20, 花粉開始
Mar, 1.10, WhiteDay&Moving, 1.10, 新生活
Apr, 1.05, Entrance, 1.05, ...
May, 1.15, MothersDay, 1.25, GW
Jun, 0.95, FathersDay, 1.15, 梅雨/除湿
Jul, 1.10, Ochugen, 1.10, 猛暑
Aug, 1.00, Obon, 1.05, 猛暑
Sep, 0.95, RespectForAged, 1.10, 台風
Oct, 1.00, Halloween, 1.10, 衣替え
Nov, 1.20, BlackFriday, 1.20, 冬準備
Dec, 1.30, Xmass&Oseibo, 1.25, 年末商戦

2) 競合分解シート(モール共通)

rank, product, price_incl_tax, ship, net_price, size/volume, unit_price,
reviews_total, reviews_30d, rating, main_image_elements,
title_structure, variations, lead_time, coupon/point, ad_sign, notes

3) レビュー速度→注文件数推計

orders_est_low  = reviews_30d / 0.05
orders_est_mid  = reviews_30d / 0.03
orders_est_high = reviews_30d / 0.01

まとめ:数字で“山”を当て、作法で“面”を取る

  • 季節性は“山の位置”を示す。S_m×E_mでいつ張るかを決める。
  • 競合分解は“面の取り方”を示す。主画像・タイトル・実質価格・レビュー速度を抽出し、自社の差分で再現する。
  • 失敗は前倒しで小さく:在庫は45〜60日回転、レビュー速度が落ちたら広告よりCS
  • 挑戦は計画的に強める:ピークの−3週から学習を温め、合格ライン(レビュー速度・ACOS/TACOS・CVR)を超えたら倍掛け

“いつ・どれだけ・どうやって”を、感覚ではなく数式と作法で。
この A×B の統合が、雇用を生む EC の最短ルートです。次回は、この分解表を使って主画像とタイトルの勝ち型を1週間で量産する実務手順を深掘りします。

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