— ペルソナ×ジョブの二軸で、商品価値を“刺さる言葉”に変換する —
はじめに:「誰に」 × 「どんな用事で」
同じ商品でも、買う人と買う“用事(Job)”が違えば、選ばれる理由は変わります。
たとえば同じ収納ボックスでも、「引越し直後で一気に片付けたい人」と「季節外の衣類を湿気から守りたい人」では、期待する成果・不安・許容価格が違う。ここを言語化しない限り、価格やデザインで“なんとなく”戦うことになり、自社の強みが見えません。
本稿では、
- ペルソナ(誰)とJTBD(何の用事)を分けて捉える方法、
- 最新の非直線なカスタマージャーニーをどう描くか、
- レビュー・検索・インタビュー・調査票・LLM 活用まで含めた実務手順、
- 商品タイプ別の具体例とテンプレ、
- KPI・検証の型
をまとめます。今日からチームで“同じ言葉”で議論できます。
用語の整理:ペルソナと JTBD は何が違う?
- ペルソナ(Persona)
「誰が買うか」を示す仮想像。年齢・職業・家族構成・価値観・生活パターン・購買行動など。- 役割:媒体/クリエイティブ配信の当て先を決める、文体・ビジュアルのトーンを決める。
- 陥りがち:物語過多で、なぜ買うか(用事)が抜ける。
- JTBD(Jobs to be Done)
「何の用事で買うか」を示す。達成したい進歩と失敗したくない不安の言語化。- 機能的ジョブ:片付けたい・肌荒れを抑えたい・時間短縮したい
- 感情的ジョブ:安心したい・自信を持ちたい・罪悪感を避けたい
- 社会的ジョブ:センスよく見られたい・気が利く人だと思われたい
結論:ペルソナ×JTBDの二軸で見る。
誰(媒体と文体を決める)× どんな用事(訴求と体験設計を決める)。
JTBD を掘るための3つのレンズ
ジョブ・ステートメント(型)
When(状況) I want to(やるべき用事) so that(得たい進歩/避けたいリスク).
例)「引越し直後(When)、一気に散らかりを“見える化”して分類したい(I want to)ので、週末までに生活動線を整えたい(so that)」
4つの力(Four Forces)
- Push(現状からの押し出し):不満・困りごと
- Pull(新ソリューションへの引力):期待・ベネフィット
- Anxiety(新しい不安):失敗したくない点
- Habit(現状維持):今のやり方・慣れ
コピー・画像・FAQは、Push と Pull を増幅しつつ、Anxiety と Habit を弱める設計に。
消費チェーンのジョブ
購入だけでなく、発見→比較→決済→受取→開梱→初回使用→維持→廃棄までに生じる小ジョブ。
ボトルネック(例:開梱の手間、初回設定の不安)が CVR やレビューに直結。
データで掘る:レビュー×検索×行動ログ×インタビュー
レビューを“用事”で束ねる(LLM 支援)
- 低/中/高評価レビューを原因×症状(例:サイズ/匂い/色味/設定/配送)でクラスタ化
- 代表フレーズを抽出(<=15字)→FAQ・主画像・同梱カードに反映
- 週間で新出トピックを検知(ロット変更・季節変動・広告訴求とのズレ)
プロンプト例(LLM向け)
「次のレビュー本文を“状況/用事/期待/不安/結果”にラベル付けし、
cluster,cause,symptom,quote(<=15字),suggested_fixでCSV化。推測は禁止、原文に忠実に。」
検索・モール内クエリから“用事語”を抽出
- 「○○ 早く」「○○ サイズ」「○○ プレゼント」など副詞・目的語に注目
- モールのサジェスト語・カテゴリ属性(作法)に商品名と主画像を合わせる
インタビュー(30–45分×5–10名)
- リクルート:最近買った/検討中/買わなかった人をバランスよく
- 禁止:「この商品好きですか?」(好き嫌いは推測の温床)
- 核心:できごとと意思決定の瞬間を時系列で
- 例)「最初に何に困って、何を探し始めましたか?」「決める直前、何が不安でしたか?」
- 成果:ジョブ・ステートメントの原文、4つの力マップ、消費チェーンの詰まり
定量(重要度×満足度→機会度)
- 調査票でアウトカム(達成したい結果)を出し、重要度・現在の満足度(1–5)を聴取
- 機会度(Opportunity)の一例
Opportunity = Importance + (Importance - Satisfaction) (= 2×重要度 − 満足度。値が高いほど攻め所)※式は手法により異なる。継続して同じ式を使うことが重要。
アーティファクト(成果物)に落とし込む
JTBD カタログ(ライブラリ化)
ID, Segment(Persona), When, Job, Outcome, Anxiety, Proof(社会的証明), Channel(Hook)
J-01, 共働きママ, 学期初め, 学用品を1つにまとめたい, 朝の準備5分短縮, サイズ合わない不安, レビュー★4.5/写真, 楽天イベント
ペルソナ v2(行動変数重視)
- 属性(年齢/家族/居住)に加え、時間制約/可処分所得/IT リテラシ/家の広さ
- 媒体(LINE/Instagram/YouTube/モール)とトーン(丁寧/スピーディ)
- 購買トリガー(引越し/入学/梅雨/猛暑/ボーナス/ギフトイベント)
カスタマージャーニー(非直線を前提)
- 情報探索(SNS→ブログ→比較 LP→モール)を行ったり来たり
- モーメント・オブ・トゥルース:初回画像の1.5秒、送料・到着日の明記、サイズ感
- KPI:各接点の前進率(次の行動へ進んだ割合)を可視化
コピーとページに変換する“翻訳レイヤー”
見出しテンプレ(D2C)
[状況]のとき、[用事]を、[手間/時間/不安]なく。
例)「引越し1週間で“散らかりゼロ”。仕分けが3倍速になる収納。」
楽天/モールのタイトル構文(作法寄せ)
カテゴリ語|容量/サイズ|主要ベネフィット|用途|到着日/配送特徴|保証/実績
例)「収納ボックス 65L|仕分け3区画で朝5分短縮|衣替え/引越し|あす楽|防湿」
主画像の型
- 1枚目:用途が一目でわかる(利用シーン+サイズ定規)
- 2–3枚目:Anxiety の打消し(色味比較・置き場所事例・耐荷重)
- 4–5枚目:成果の証拠(ビフォー/アフター・レビュー引用・第三者比較)
FAQ の優先順位
- 上位の不安クラスタから先に(「届いたら大きすぎた」「色が画面と違う」など)
- 返品/交換の明記は CVR↑に寄与。隠さない。
商品タイプ別「用事→表現」サンプル
収納ボックス(中粗利・薄軽)
- 主ジョブ:①引越しで分類→早く生活動線を整えたい ②衣替え→湿気と虫を避けたい
- Anxiety:サイズ・色味・強度・積み重ねの安定性
- コピー:「“いま散らかったまま”から抜け出す3区画。週末で生活線が通る。」
- 証拠:外寸/内寸、A4/衣類の実物比較、耐荷重試験図、レビュー写真
機能性スキンケア(高粗利・説明重視)
- 主ジョブ:マスク荒れ/季節変わりのゆらぎ→“明朝のコンディション不安”を減らす
- Anxiety:刺激・ベタつき・相性・ニオイ
- コピー:「“明日の肌運”を崩さない、夜30秒の保湿バリア。」
- 証拠:敏感肌パッチテスト・全成分・ユーザーの使用前後24hの水分量グラフ
ギフト菓子(中粗利・イベント波動)
- 主ジョブ:“外さない・気が利く人に見える”
- Anxiety:熨斗・到着日・手土産にふさわしい見栄え
- コピー:「お渡し3分前まで迷わせない。“手提げ・熨斗・到着日”込みで外さない。」
- 証拠:シーン別セット、レビューの“差し入れ成功談”、到着日カレンダー
デスクチェア(高関与・配送負担)
- 主ジョブ:腰痛悪化を避けながら集中2時間を作る
- Anxiety:組立の難しさ、座面の硬軟、返品の可否
- コピー:「2時間後の腰が“平気”。座面硬度を選べる、3クリック組立。」
- 証拠:耐久テスト、返品・引取り条件の明記、身長別の最適設定表
BtoB 消耗品(低粗利・ロジ優先)
- 主ジョブ:欠品リスクゼロで購買工数を減らす
- Anxiety:請求・納期・規格互換
- コピー:「“欠かさない”を自動化。規格互換保証+月次一括請求。」
- 証拠:承認フロー対応、EDI/CSV、代替品リスト
LLM の使いどころ(“推測させない”運用)
- クラスタリング:レビュー/問い合わせを JTBD ラベルに自動分類
- 文案草稿:上記ラベルから主画像テキスト/FAQの初稿を生成(必ず人が検証)
- 否定語生成:広告の不要クリックを避ける語を洗い出し
- 警戒点:数値は必ず原典で確認。LLM に出典 URL を付けさせるルールで。
検証の KPI:“刺さったか”を数字で見る
- レビュー言及率:狙った用事キーワード(例:「朝の支度」「腰が楽」)がレビュー内で何%出るか
- CVR 差:JTBD対応の主画像・タイトル・FAQ で A/B の CVR 差
- 返品理由のクラスタ:不安の“芽”が減っているか
- 検索→商品詳細の遷移率:用事語で流入したユーザの前進率
- 貢献利益/件:訴求変更で広告効率が改善し許容 CPA が上がったか
30日スプリント:言語化→ページ反映→計測
Week 1|収集:レビュー100件を LLM+人手でラベル付け/検索・モール語を抽出
Week 2|設計:ジョブ・ステートメント10本/4つの力マップ/FAQ 草稿
Week 3|実装:主画像・タイトル・比較表に反映、広告の否定語10–30件
Week 4|計測:CVR・レビュー言及率・返品クラスタをダッシュボード化→次サイクルへ
テンプレート(コピペ OK)
インタビュー質問票(抜粋)
1) 直近の“困りごと”は何でしたか?(できごとベース)
2) 何を最初に検索/相談しましたか?(語彙と場所)
3) 比較した選択肢は?捨てた理由は?(Anxiety/Habit)
4) 決める直前に不安だったことは?(返品/サイズ/到着日)
5) 使ってみて良かった/微妙だった点は?(Outcomeとギャップ)
JTBD カード
[状況]:____
[用事]:____
[期待する成果]:____
[不安/障壁]:____
[確証/証拠]:____(レビュー/数値/比較)
[反映先]:主画像#1/#2、タイトル構文、FAQ Q1/Q2、広告見出し
FAQ の優先順位表
頻度×影響度で並べ替え → 上位5つだけを1stビューに
Q1:サイズ/色味/互換
Q2:到着日/置き配/時間指定
Q3:返品/交換/保証
Q4:使い方の最初の一歩
Q5:メンテ/洗濯/補充
よくある落とし穴(避けるべきこと)
- “好き嫌い”の議論:内輪の感想ではなく、ジョブ言及率と CVR で判断。
- ペルソナの物語化:職業や趣味を脚色しすぎると、実装につながらない。
- 万能商品化:ジョブが増えすぎると主画像が騒がしくなり CVR↓。上位2–3ジョブに集中。
- 返品ポリシーを隠す:Anxiety を放置すると広告費が溶ける。
- LLM の推測を鵜呑み:出典と原文で照合するルールを。
まとめ:“用事”に合わせて価値を再配列する
- ペルソナ(誰)×JTBD(用事)の二軸で、コピー・主画像・FAQ・セット・広告を再設計。
- レビュー/検索/面談/調査票/LLMを組合せ、失敗の芽(Anxiety)から直す。
- KPI は言及率・CVR・返品クラスタ・貢献利益/件。30日サイクルで回す。
“何を買うか”ではなく、“どんな進歩のために買うか”。
そこを言語化できたブランドは、価格以外の理由で選ばれるようになります。
付録:最後に—迷ったら専門家と数字で詰めましょう
本稿のフレームは汎用の型です。実際にはカテゴリ特性・原価・物流・広告単価で最適解が変わります。
最終判断は、実データの P/L とセットで。もし社内に相談相手がいなければ、私たち(※ご相談歓迎)が JTBD 調査→ページ反映→A/B 計測まで並走します。
「うちの“用事”は何か?」を、一緒に数字で解きましょう。
ネットショップ企画(記事一覧)
Phase 1|調査と戦略:日本市場を読む(全5回)
- 第6回:市場規模・需要調査(日本特有の季節性と行事)× 競合分解(楽天/Yahoo!/Amazon 上位店の勝ち筋)
- 第7回:顧客像×JTBD(購買の“理由”を言語化)
- 第8回:価格戦略と手数料込みユニットエコノミクス
- 第9回:キーワード&商品需要(SEO+検索実績)
- 第10回:ブランド/レビュー戦略(指名検索と星の経済圏)
各チャプター一覧
- Phase 0|覚悟と設計:片手間では勝てない
- Phase 2|構築・商品力:勝てる土台を作る
- Phase 3|集客・運用:回して磨く
- Phase 4|拡張・採用:人を雇える事業へ


