— “わかりやすい価格”で CVR を上げ、手数料まで入れた1件利益で経営する —
はじめに:価格は“伝え方”が9割、損益は“数式”が9割
EC で価格は最強のレバーですが、複雑な値付けは即 CVR(購入率)を下げます。
- クーポンの多重適用、ポイント・送料・税の表示ゆれ、「その場しのぎ」の値下げ……。
結果、お客さまが“最終いくら?”を計算する負荷が高まり、購入保留が増えます。
本稿では、
- 手数料・送料・広告費・ポイントまで入れたユニットエコノミクス(1件あたり損益)の出し方、
- シンプルで伝わる価格の作り方(提示と見え方)、
- 定期購入(サブスク)前提の定価設計と LTV の数式、
- モール別の費用の“見えない増減”の扱い、
- 実務テンプレと30日実装計画
を、具体数値と桁を追う計算でまとめます。
※ここでの数値は例です。実際の率・料金は商材・モール条件で変わるため、最終判断は自社P/Lで検証してください。
まず“1件あたり”で語る:ユニットエコノミクスの式
定義(固定費を除外した“変動”の損益)
貢献利益/件
= (売上 × 粗利率)
− {モール/決済手数料 + 送料 + 梱包 + ポイント/クーポン原資 + 広告CPA + 返品損 等}
“1件でいくら残るか”を出してから、月45〜60万円(例:1人雇用の目安)の必要件数を逆算します。
必要件数 = 目標月間貢献利益 ÷ 貢献利益/件
価格の“伝え方”原則(CVR を落とさない7箇条)
- 税込・送料込みの最終価格を1行で(モール作法に沿って)
- 割引は1つだけ(クーポン or セール。重ねない)
- ポイント・還元は“実質価格”で脳内計算させない(「最終◯円」明示)
- 送料ラインはキリの良い額(例:5,000/10,000円)で“自動適用”
- 定期購入は−3〜10%の小さな一貫割引(特典を積み上げず、継続条件を明快に)
- 価格末尾は統一(“00円” or “80円”。カテゴリの慣習に合わせる)
- 他チャネルとの価格差は“理由つき”で(例:自社 EC は“定期/会員”が得)
複雑さ=思考コストです。“お客さまが計算しなくて良い”表現を最優先に。
3. 例で理解:手数料込みユニットエコノミクス
例 A)自社 EC(高粗利・薄軽)
- 価格(AOV):7,800円
- 粗利率:65% → 粗利 = 7,800×0.65
- 計算:7,800×65% = 7,800×(50%+15%) = 3,900 + 1,170 = 5,070円
- 決済手数料(3.6%):7,800×0.036
- 計算:7,800×0.03=234/×0.006=46.8 → 合計 280.8 ≈ 281円
- 送料:350円/梱包:60円
- 広告CPA:900円/返品損:80円
貢献利益/件
= 5,070 − (281 + 350 + 60 + 900 + 80)
= 5,070 − 1,671
= 3,399円
示唆:高粗利×薄軽は、広告を許容しやすく、表示も“送料込1本”でシンプルにできる。
例 B)楽天(中粗利・ポイント運用あり)
- 価格(AOV):5,500円
- 粗利率:55% → 粗利 = 5,500×0.55
- 計算:5,500×55% = 5,500×(50%+5%) = 2,750 + 275 = 3,025円
- モール手数料(例:12%):5,500×0.12 = 660円
- ポイント原資(例:5%):5,500×0.05 = 275円
- 送料:600円/梱包:60円
- RPP等広告CPA:600円/返品損:60円
貢献利益/件
= 3,025 − (660 + 275 + 600 + 60 + 600 + 60)
= 3,025 − 2,255
= 770円
示唆:ポイント原資と RPP で薄利化。セット化(AOV↑)と送料効率が鍵。
例 C)Amazon FBA(中粗利・広告依存)
- 価格:4,980円
- 粗利率:55% → 粗利 = 4,980×0.55
- 計算:4,980×(50%+5%) = 2,490 + 249 = 2,739円
- リファラル(例:15%):4,980×0.15
- 計算:4,980×0.1=498/×0.05=249 → 747円
- FBA フルフィルメント:430円/保管等:70円
- SP 広告(例:ACOS 20%):4,980×0.20 = 996円
- 返品損:60円
貢献利益/件
= 2,739 − (747 + 430 + 70 + 996 + 60)
= 2,739 − 2,303
= 436円
示唆:ACOSは粗利率以下を目標に。A+・比較表でCVR↑→ACOS↓を狙う。
“許容値引き(または許容 CPA)”を数式で決める
価格を1円下げると粗利は−粗利率、一方で手数料・ポイントは価格比例でコストも少し下がる。
よって貢献利益の減少/1円は
Δ貢献 = (粗利率 − 手数料率 − ポイント率)
(送料・梱包・返品損は価格に比例しない前提)
例 B で“値引き上限”を計算
- 粗利率 0.55、手数料率 0.12、ポイント率 0.05
- Δ貢献 = 0.55 − 0.12 − 0.05 = 0.38円/値引き1円
- いまの貢献/件 770円。最低でも600円は死守したい → 許容減少 170円
- 許容値引き(円) = 170 ÷ 0.38 ≈ 447.3円
- 許容値引き率 = 447.3 ÷ 5,500 ≈ 0.0813(≒8.1%)
定期購入の割引やイベントクーポンは、この上限内に“必ず”収める。
さらに定期で広告費(600円)が次回以降ゼロになるなら、その差額分だけ上限を拡張できます。
定期購入の設計:値引きは“小さく長く”、LTV で勝つ
LTV と回収の数式
- 1回あたり貢献:
CM1(定期割引・ポイント・送料を反映) - 解約率(サイクル):
c(例:月次15%ならc=0.15) - 期待注文件数:
1/c(例:1/0.15=6.67回) - LTV(変動貢献) ≈
CM1 × (1/c)− 初回 CAC(初回だけ広告/紹介費) - 回収サイクル(Payback):
ceil(CAC / CM1)
数値例(定期−5%を検討)
- 例Bをベースに、定期割引5%をかける:価格 5,500×0.95=5,225円
- 価格比例の項目は同率で減少
- 粗利:5,225×0.55 → 5,225×(50%+5%)=2,612.5+261.25=2,873.75円
- 手数料(12%):5,225×0.12=627円(5,225×0.1=522.5、×0.02=104.5 → 合計627.0)
- ポイント(5%):5,225×0.05=261.25円
- 価格非連動は据え置き:送料600/梱包60/返品損60
- 広告:初回のみ600円、2回目以降0円想定
初回の貢献
= 2,873.75 − (627 + 261.25 + 600 + 60 + 600 + 60)
= 2,873.75 − 2,208.25
= 665.5円
2回目以降の貢献(広告0円)
= 2,873.75 − (627 + 261.25 + 600 + 60 + 0 + 60)
= 2,873.75 − 1,608.25
= 1,265.5円
LTV(c=0.15)
- 期待回数 ≈ 6.67
- 期待貢献 ≈ 初回665.5 + 1,265.5×(6.67−1)
- (6.67−1)=5.67
- 1,265.5×5.67 ≈ 1,265.5×5 + 1,265.5×0.67
- 1,265.5×5=6,327.5
- 1,265.5×0.67 ≈ 1,265.5×(2/3) ≈ 843.7(厳密計算:1,265.5×0.6=759.3、×0.07=88.585 → 合計847.885)
- 合計 ≈ 6,327.5 + 847.885 = 7,175.385
- LTV ≈ 665.5 + 7,175.385 = 7,840.885円
示唆:5%割引でも、広告が初回だけならLTVが大幅に伸びる。
逆に毎回の送料が重い商材や解約率が高い場合、割引幅は3%程度に抑え、同梱特典(サンプル/保証延長)で価値を出す方が安全です。
価格“そのもの”より見え方を設計する
送料込み主義
- 「税込・送料込」をファーストビューで1行表示。
- “あと◯円で送料無料”は自動計算で見せ、クーポン入力を不要に。
グッド/ベター/ベストの3択(単品/セット/定期)
- 単品:標準価格
- 2個セット:送料効率で単価−◯円(割引率ではなく“差額”で明示)
- 定期:−5%(“1回スキップ可/解約はマイページ1分”まで書く)
“実質価格”の罠を避ける
- ポイント/還元は参考情報。最終支払額を太字で。
- クーポン配布ページ巡回をやめ、自動適用か同梱特典に置換。
末尾と桁
- 00円/80円に統一。カテゴリ慣習(家電=00、日用品=80/88等)に合わせる。
- “端数の理由”(送料内包や材料高騰)を透明化すると、値上げ受容が上がる。
モール別:費用と作法を“価格”に織り込む
- 楽天:ポイント原資はコスト。イベント時に実質価格が下がりすぎない上限を決める。RPPは露出の保険で、否定語を積み上げ無駄クリックを減らす。
- Yahoo!:PayPay還元が強い日でも、貢献/件が1,000円未満にならないよう実質値引率を監視。
- Amazon:Buy Box優先の価格整合性。FBA料金・サイズ区分で送料の段差が変わるため、バンドルでサイズをまたがない設計が有効。
- Qoo10:メガ割は価格階段の設計が肝。ベース定価を逆算しておく。
- 自社EC:決済手数料は低めだが、獲得CPAが上がりやすい。CVR↑(主画像/比較/FAQ)とAOV↑(セット/定期)で許容CPAを引き上げる。
バンドルと“段差”を味方にする
- 送料の段差(厚さ/3辺サイズ/温度帯)を超えない商品設計で、1件コストを−100〜−300円下げられるケースが多い。
- 2個/3個セットは、“割引率”より“合計で◯円お得”を強調。
- ギフトは資材コストを価格に含めつつ、“あとづけ購入”の摩擦を減らす(ギフト包装はチェック1つ)。
価格テストは“週次1テーマ”で回す(30日実装)
Week 1:棚卸し
- SKU ごとに貢献/件を算出(手数料・ポイント・送料・CPA・返品損まで)。
- 許容値引き(または許容CPA)を式で出す。
Week 2:提示リデザイン
- 税込・送料込・最終価格の1行化。
- 3択(単品/セット/定期)を実装。定期は−3〜5%から。
Week 3:セット/送料最適化
- サイズ段差を跨がない組み方に変更。
- “あと◯円で送料無料”を自動適用化。
Week 4:AB計測
- CVR、AOV、TACOS、貢献/件を WBR でレビュー。
- 赤信号:CVR が−0.3pt超 or 貢献/件が−200円超 → 元に戻す。
- 青信号:貢献/件+200円 or AOV +500円 → 固定化。
スプレッドシート雛形(列名そのまま)
channel, sku, price, gross_margin_rate,
fee_rate, points_rate,
shipping, packaging, ads_cpa, returns_loss,
contribution_per_order,
allowed_discount_yen, allowed_discount_pct,
subscription_discount_pct, churn_rate, cm_first, cm_repeat, ltv, payback_cycles
計算メモ
contribution_per_order = price*gmr - (price*fee + price*points + shipping + packaging + ads + returns)delta_per_1yen = gmr - fee - pointsallowed_discount_yen = max(0, contribution_per_order - target_cm) / delta_per_1yen- 定期:
cm_first = price*(1-discount)*gmr - (...)(初回はads>0、2回目以降ads=0) ltv ≈ cm_first + cm_repeat*(1/churn - 1)payback_cycles = ceil(CAC / cm_repeat)(初回以外で回収する場合)
よくある失敗と回避策
- 割引を積み上げる(クーポン+ポイント+送料無料)→ “最終価格”が不明で CVR↓。
→ 割引は1つだけ、自動適用。 - 実質原価無視の値下げ → 手数料・ポイントの“連動減”を見落とす。
→ Δ貢献 = 粗利率 − 手数料率 − ポイント率で値引き限界を算出。 - 定期の“特典てんこ盛り” → 運用が複雑化し解約率↑。
→ −3〜5%の小割引+スキップ自由で長期継続を狙う。 - サイズ段差を跨ぐセット → 送料が跳ねて赤字。
→ 段差を跨がない組み合わせに再設計。 - チャネル間価格矛盾 → 信用毀損・Buy Box喪失。
→ 理由ある差(定期/会員)のみ、ルール化して運用。
まとめ:価格は“簡単に見えること”、損益は“厳密に積むこと”
- 提示はシンプルに:「税込・送料込・最終◯円」。
- 割引は1つだけ/自動適用/3択の価格構造で迷わせない。
- 手数料・ポイント・送料・CPA・返品損まで入れた貢献/件で判断。
- 定期は小さく長く。LTV と回収サイクルで設計。
- 楽天・Yahoo!・Amazon の作法と費用を“価格に織り込む”。
最後にもう一度。ここで示した数値はあくまで例です。
実際の最適解はカテゴリ特性・サイズ段差・手数料体系・解約率で大きく変わります。
最終的な価格決定は、わかる人に(社内外のプロに)P/L を見てもらうのが最短です。
ご相談ください:
弊社では、手数料込みユニットエコノミクスの作成、価格提示のリデザイン、定期前提の定価設計、30日テスト運用まで並走支援しています。
「うちの条件でいくらまで値引きできるか?」「定期割は何%が安全か?」を、あなたの数字で一緒に答えを出します。
ネットショップ企画(記事一覧)
Phase 1|調査と戦略:日本市場を読む(全5回)
- 第6回:市場規模・需要調査(日本特有の季節性と行事)× 競合分解(楽天/Yahoo!/Amazon 上位店の勝ち筋)
- 第7回:顧客像×JTBD(購買の“理由”を言語化)
- 第8回:価格戦略と手数料込みユニットエコノミクス
- 第9回:キーワード&商品需要(SEO+検索実績)
- 第10回:ブランド/レビュー戦略(指名検索と星の経済圏)
各チャプター一覧
- Phase 0|覚悟と設計:片手間では勝てない
- Phase 2|構築・商品力:勝てる土台を作る
- Phase 3|集客・運用:回して磨く
- Phase 4|拡張・採用:人を雇える事業へ


